家の中で見かけるゴキブリには、二つの異なる人生があります。一つは家の中で生まれ育つ「定住型」、もう一つは外の世界から偶然迷い込んだ「漂流型」です。特に大型のクロゴキブリの場合、その多くは後者であり、彼らが勝手に出ていくことを期待できるのは、この漂流型であるときに限られます。私は以前、古い一軒家に住んでいた際、偶然にもこの「漂流者」が再び外へと戻っていくプロセスを観察する機会がありました。それはある夏の夜、玄関の隙間から滑り込んできた一匹のクロゴキブリでした。彼は家の中に入った瞬間、あまりに平滑なフローリングの感触に戸惑っているようでした。本来、土や枯れ葉の上を歩くように設計された彼の足は、ワックスの効いた床では空回りし、その動きは外で見かけるときのような俊敏さを欠いていました。彼は壁際に沿って移動し、キッチンの方へ向かいましたが、そこには運良く食べかすも水分もありませんでした。彼は数時間、ダイニングの椅子や壁の裏を探索していましたが、翌朝には姿を消していました。私は彼がどこかに潜んでいるのではないかと疑い、あらゆる隙間をチェックしましたが、見つかりません。そして二日後の夜、再び彼を玄関付近で見かけました。彼は侵入したときと同じ場所で、外からの空気の流れを確認するように触角を激しく動かしていました。彼にとって、家の中は温度こそ快適であっても、獲物となる昆虫もおらず、仲間との出会いもない、退屈で不自然な異空間だったのでしょう。しばらくすると、彼はドアのわずかな隙間に体をねじ込み、闇夜の中へと静かに消えていきました。このとき私が学んだのは、ゴキブリが勝手に出ていくためには、家の中が「自然界の代替品」になっていてはいけないということです。もし私のキッチンに一滴の醤油が垂れていたり、ゴミ箱の蓋が開いていたりしたら、彼は探索を終えて定住を決意していたに違いありません。家の中を無味無臭、かつ無機質な空間に保つことは、迷い込んだ彼らに「ここは間違った場所だ」と気づかせるための無言のメッセージになります。彼らが勝手に出ていくのを待つことができるのは、私たちが彼らをもてなさない準備ができているときだけです。漂流者が定住者へと変わる境界線は、私たちが提供してしまうわずかな資源の有無にあります。彼らが自ら去る姿を見送ることができるかどうかは、私たちの日常の清潔さにかかっている。あの夜の玄関先での静かな別れは、私にとって清潔の重要性を再認識させる、奇妙な体験となりました。