「一匹くらいなら、放っておけばそのうち勝手に出ていくだろう」そんな楽観的な考えが、どれほど凄惨な結末を招くか、私の失敗談を通じて知っていただきたいと思います。それは一人暮らしを始めたばかりの夏のことでした。キッチンの床で親指ほどのクロゴキブリを見かけたのですが、私は虫が大の苦手で、退治することもできず、ただ見ていることしかできませんでした。翌朝、姿が見えなくなっていたので、私は「ああ、昨夜の窓の隙間から勝手に出ていってくれたんだな」と勝手に解釈し、安心していました。それが地獄への入り口でした。それから一ヶ月後、掃除をしようとキッチンのシンク下の扉を開けた瞬間、私の視界を埋め尽くしたのは、茶色の小さな粒のようなものが無数に動く光景でした。それは紛れもなく、あのとき「出ていった」と思い込んでいた個体が産み落とした卵から孵った幼虫たちでした。一匹の雌が産む卵からは、一度に二十匹から三十匹の赤ちゃんが生まれます。私が放置したあの一ヶ月の間に、家の中は完璧な繁殖場として機能していたのです。慌ててプロの業者を呼びましたが、彼が冷蔵庫を動かしたとき、壁一面に張り付いた黒い影を見て、私は膝から崩れ落ちました。業者の人は「ゴキブリは決して一人では出ていきません。彼らにとって人間は、タダで餌を運んでくれる召使いのようなものですよ」と苦笑いしながら言いました。結局、徹底的な駆除作業と特殊な薬剤の散布で数十万円の費用がかかり、おまけに大切な食器や食品もすべて破棄せざるを得ませんでした。もしあの日、遭遇した瞬間に勇気を出して叩くか、すぐにベイト剤を置いていれば、こんなことにはならなかったはずです。「勝手に出ていく」という願いは、実は彼らにとっての「生存許可」を与えているのと同じ意味なのです。彼らは恩義を感じて去るような殊勝な生き物ではありません。むしろ、私たちの油断を養分にして、目に見えない場所で着々と帝国を築き上げます。私の家から平穏が失われたのは、ゴキブリのせいではなく、私の無知と先送りの精神のせいでした。この苦い経験から学んだのは、ゴキブリ問題に「自然解決」は存在しないという冷酷な真実です。見つけたその瞬間に、あるいは見失ったその直後に、あらゆる手段を講じて彼らの生存を否定しなければなりません。今、もしあなたの視界を黒い影が横切ったなら、私の二の舞にならないよう、すぐに覚悟を決めてください。彼らが出ていくのは、あなたが彼らを追い出したときだけなのです。