虫刺されといっても多種多様ですが、特に水ぶくれを伴うものは患者さんの不安が強いものです。診察室でよく受ける質問に、何の虫に刺されたのか、というものがあります。識別において重要なのは、水ぶくれの形と、付随する症状の推移です。例えば、刺された直後に激痛が走り、その後に中央が少し凹んだような小さな水ぶくれができる場合は、火アリや特定外来生物のアカカミアリの可能性を考慮します。一方、痛みはなく、翌朝になってから突然、刺された覚えのない場所に大豆ほどの大きな水ぶくれができている場合は、ブユ(ブヨ)による遅延型のアレルギー反応を疑います。また、自宅の庭やベランダに土が溜まっている場所があれば、そこから発生したシバンムシアリガタバチという小さな蜂の被害も考えられます。この蜂は非常に小さく、刺された瞬間にチクッとした痛みがあり、その後強い痒みとともに水ぶくれを生じることがあります。さらに、都会の住宅でも増えているのがトコジラミ(ナンキンムシ)による被害です。夜間に寝ている間に複数箇所を刺され、激しい痒みを伴う赤い発疹が出ますが、体質によってはこれらが水ぶくれになることもあります。識別におけるもう一つの鍵は「季節と場所」です。春先なら毛虫、夏ならブユや蚊、秋ならハチやダニといった具合に、活動時期から絞り込めます。もし水ぶくれの中に黒い点が見えるようであれば、それはマダニの頭部が残っている可能性があり、この場合は無理に引き抜かず、そのままの状態で来院していただくのが一番安全です。水ぶくれができるということは、体がその虫の毒に対して「緊急事態」のサインを出しているということです。自己判断で市販薬を塗り続けると、かえって炎症をこじらせることもあります。特に、周囲に赤い線が伸びてきたり、熱を持ったり、リンパ節が腫れてきたりした場合は、細菌感染の合併が強く疑われます。早期に適切な強さのステロイド剤や、必要に応じて抗生剤を使用することで、苦痛を最小限に抑え、色素沈着を防ぐことができます。虫の種類を特定しようと躍起になるよりも、まずはその皮膚の悲鳴に対して、医学的に正しいアプローチを行うことが大切です。
皮膚科医に聞く水ぶくれを作る虫刺されの識別ポイント