家の中に現れる「細長い虫」を前にした時、私たちが最も警戒しなければならないのが、益虫であるゲジや、無害なヤスデと、強力な毒を持つ危険な害虫「ムカデ」とを混同してしまうことです。この三者は、同じ多足類で、一見すると似ているため、区別がつかないまま対処してしまうケースが後を絶ちません。しかし、その危険度は天と地ほども違い、この三者を見分ける知識は、自らの身の安全を守る上で絶対に不可欠です。まず、最も分かりやすい見分け方のポイントは「脚の長さと生え方」です。ゲジは、胴体に対して不釣り合いなほど細く長い脚が、まるで体から放射状に広がるように生えています。一方、ムカデの脚は比較的短く、がっしりとしており、各体節から綺麗に一対ずつ、胴体の真横から生えています。ヤスデは、一つの体節から二対の、さらに短い脚が下向きに生えています。次に、「体の形と色」も重要な判断材料です。ゲジの体は灰色がかった茶色で、やや丸みを帯びています。ムカデの体は赤褐色や黒色で、明らかに平たく、重厚感があります。ヤスデの体は、黒っぽく、円筒形、つまり丸い筒状をしています。そして、「動き方」も決定的です。ゲジは、驚異的なスピードで壁や天井さえも立体的に走り回ります。ムカデは、地面を這うように、体を波打たせながらウネウネと進みます。ヤスデは、無数の脚を巧みに動かし、比較的ゆっくりと直進します。もし、家の中で遭遇した虫が、平たくて脚が短く、ウネウネと進むタイプであったなら、それは益虫のゲジではありません。強力な毒を持つ、非常に危険な害虫「ムカデ」です。絶対に素手で触ろうとしたり、不用意に近づいたりしてはいけません。十分な距離を保ち、殺虫剤や熱湯などを用いて、確実かつ安全に駆除する必要があります。この見分け方を知っているかどうかが、激しい痛みを伴う被害に遭うか否かの、大きな分かれ道となるのです。