春の訪れとともに、私たちの生活圏で活動を再開させるのがアシナガバチです。四月から五月にかけて、越冬を終えた一匹の女王蜂が新たな住処を求めて庭の軒下やベランダに姿を現します。この時期に作られる初期の巣は、まだ働き蜂が羽化しておらず、女王蜂がたった一匹で子育てをしながら巣を大きくしている段階です。このタイミングこそが、専門業者に頼らず自分自身の力で安全に巣を落とすことができる最大のチャンスとなります。初期の巣の特徴は、逆さまにしたお椀のような形や、蓮の実のような形状をしており、直径も数センチメートル程度と非常にコンパクトです。この段階であれば、蜂の攻撃性はそれほど高くなく、女王蜂も巣を守ることより自分自身の生存を優先する傾向があるため、正しい手順を踏めば恐怖心を感じることなく対処が可能です。まず準備すべきは、ハチ専用の合成ピレスロイド系殺虫スプレーです。これには蜂を即座に動けなくするノックダウン効果と、遠距離から正確に狙える強力な噴射力が備わっているものを選んでください。作業を行う時間帯は、女王蜂が巣に戻って静止している夕方から夜間、あるいは早朝が最適です。日中の暖かい時間は女王蜂が餌を探しに巣を離れていることが多く、巣だけを落としても、戻ってきた女王蜂が再び同じ場所に巣を作り始めてしまう「戻りバチ」のリスクがあるからです。作業の際は、長袖長ズボンに帽子、手袋を着用し、可能な限り肌の露出を抑えた服装を心がけましょう。蜂は光に集まる習性があるため、懐中電灯を使用する場合は直接巣を照らさないようにし、赤いセロハンを貼るなどの工夫をすると、蜂を刺激せずに接近できます。風上から数メートルの距離を保ち、スプレーを一気に噴射して女王蜂ごと巣を無力化します。蜂が動かなくなったことを確認してから、長い棒などを使用して巣を物理的に落とします。落とした後の巣と蜂の死骸は、素手で触れずにトングなどで回収し、ビニール袋に密閉して処分します。最後に、巣があった場所に再度スプレーを吹き付けておくことで、残されたフェロモンによる再発を防ぐことができます。初期段階での決断と行動が、夏場の大規模な巣作りとそれに伴う刺傷被害を未然に防ぐための最も賢明な防衛策と言えるでしょう。
アシナガバチの巣を初期段階で自ら落とすための安全ガイド