釣り餌や熱帯魚の餌として、その名を聞いたことがある方も多い「赤虫」。しかし、その正体が一体何なのか、どのような一生を送っているのかを詳しく知る人は少ないかもしれません。この小さな赤い生き物は、実は私たちの身近な水辺に生息する「ユスリカ」という昆虫の幼虫なのです。ユスリカは、見た目が蚊によく似ていますが、人を刺して血を吸うことはありません。彼らのライフサイクルは、卵→幼虫→蛹→成虫という、完全変態を経て進みます。私たちが「赤虫」と呼んでいるのは、このうちの幼虫期にあたる姿です。赤虫は、その名の通り、鮮やかな赤い色をしていますが、これは血液中に人間と同じヘモグロビンを持っているためです。彼らは、酸素の少ない川や池の底、汚れた側溝の泥の中などに生息しており、このヘモグロビンのおかげで、厳しい環境でも効率よく酸素を取り込んで生きることができます。水中では、泥や有機物を使って筒状の巣を作り、その中で生活しています。餌は、水中のデトリタス(生物の死骸や排泄物などが分解されたもの)や藻類など。つまり、彼らは水底の「掃除屋」として、水質浄化に一役買っているのです。幼虫として数週間から数か月間を水中で過ごした赤虫は、やがて蛹になり、その後、羽化して成虫のユスリカとなって水面から飛び立ちます。成虫の寿命はわずか数日で、その間は口が退化しているためほとんど食事を摂らず、子孫を残すためだけに活動します。釣り餌や観賞魚の餌として利用される赤虫は、このユスリカの幼虫を採集したものです。不快な虫として嫌われることもあるユスリカですが、その幼虫時代である赤虫は、水辺の生態系を支える重要な存在。その赤い体には、過酷な環境を生き抜くための、驚くべき生命の仕組みが隠されているのです。