深夜、一人でリビングにいたときに視界の端をよぎった黒い影。心臓が跳ね上がり、手に持っていたスマートフォンを落としそうになりながらも、私は必死でその行方を追いました。しかし、敵はあまりにも素早く、ソファの裏にあるわずかな隙間へと吸い込まれるように消えてしまいました。殺虫スプレーを手に取ったときにはもう遅く、そこにいたはずの存在は完全に気配を消していました。その瞬間から、私の平穏な夜は終わりを告げました。ソファを動かしてまで追い詰める勇気はなく、かといってそのまま寝ることもできません。頭の中では「もしかしたら、私が寝ている間に窓の隙間から勝手に出ていってくれるのではないか」という淡い期待が膨らんでいきました。そんな都合の良いことが起こるはずがないと分かっていても、そう信じなければ一歩も動けなかったのです。私はキッチンの換気扇を強に回し、少しでも空気を動かして彼に不快感を与えようと試みました。さらに、玄関のドアの隙間や窓のサッシを凝視しながら、彼が出ていく姿を想像し続けました。しかし、静まり返った部屋で聞こえてくるのは時計の秒針の音だけで、カサカサという不気味な足音さえも聞こえません。この「見失った状態」が一番精神を削ります。どこにいるか分からない、でも確実にこの部屋のどこかに潜んでいる。その事実が、私の肌に微かな痒みさえも感じさせます。結局その夜、私はリビングの電気をすべて点けっぱなしにし、明るい場所を嫌う彼が活動を控えることを祈りながら、震える体で寝室へと逃げ込みました。翌朝、部屋を隅々まで掃除しましたが、彼の姿も、出ていった形跡も見つかりませんでした。「勝手に出ていく」という願いは、恐怖から逃げ出したい自分への甘い言い訳に過ぎなかったのかもしれません。あの日以来、私は家具の裏にベイト剤を置き、二度と見失わないための準備を整えました。自然に解決することを待つ時間は、ゴキブリにとっては繁殖の準備を整える時間でしかないことを痛感したからです。見えない恐怖を放置することは、未来の自分にさらなる恐怖を先送りすることに他なりません。もし今、私と同じように見失った個体が勝手に出ていくのを待っている人がいるなら、私は伝えたいです。今すぐ掃除機をかけ、食べかすを取り除き、彼らに「ここは居心地が悪いぞ」という強いメッセージを送りなさいと。それが、本当の意味で彼らを追い出すための第一歩になるのです。