家の中で遭遇する、赤茶色をした「ゴキブリみたいな虫」。その不気味な姿に多くの人が警戒しますが、その正体のほとんどは、日本家屋で最も一般的に見られる「クロゴキブリ」の、まだ大人になりきれていない「幼虫」です。普段私たちが見慣れている、黒光りする3~4センチの成虫とは似ても似つかないその姿は、彼らの成長過程を知ることで、その謎が解けてきます。クロゴキブリは、卵→幼虫→成虫という「不完全変態」を経て成長します。メスは、小豆のような形をした「卵鞘(らんしょう)」と呼ばれる硬いカプセルの中に、20~30個の卵を産み付けます。この卵鞘は、家具の裏や段ボールの隙間といった、暗くて暖かい場所に巧みに隠されます。そして、約1~2ヶ月後、このカプセルを食い破って、体長わずか4ミリ程度の小さな幼虫たちが一斉に誕生するのです。孵化したての幼虫は白っぽい色をしていますが、すぐに色素が定着し、赤茶色から黒褐色へと変化していきます。背中にクリーム色の斑点模様があるのが、この時期の幼虫の大きな特徴です。彼らは、成虫になるまでに、8~10回もの脱皮を繰り返しながら、約1年から2年という長い時間をかけてゆっくりと成長していきます。そして、脱皮するたびに、その体は一回りずつ大きくなり、色も徐々に黒みを増していきます。私たちが家の中で「赤いゴキブリ」として目撃するのは、この長い幼虫期間の、いずれかのステージにいる個体なのです。彼らは成虫と同様に雑食性で、人間の食べこぼしやホコリ、髪の毛など、あらゆる有機物を食べて成長します。そして、彼らもまた、成虫と同じように、様々な病原菌を媒介する衛生害虫であることに変わりはありません。もし、家の中でこの赤い幼虫を頻繁に見かけるようになったら、それは、あなたの家が、彼らにとって何世代にもわたって安心して暮らせる、快適な住処と化している証拠です。見えない場所で、次世代の黒い悪魔たちが、着々と成長を続けているという、紛れもない危険信号なのです。