服を食べる虫として、カツオブシムシと並んで悪名を馳せるもう一人の犯人、それが「イガ」です。こちらは、甲虫のカツオブシムシとは異なり、蛾(ガ)の仲間です。その侵入経路や生態には、カツオブシムシとはまた少し違った特徴があり、その違いを知ることが、より効果的な対策へと繋がります。イガの成虫は、体長5ミリ程度の、銀色から淡い黄褐色の、非常に地味な見た目をした小さな蛾です。彼らは、一般的な蛾のように、光に強く誘引される性質はあまりなく、むしろ暗くて静かな場所を好みます。また、飛行能力もそれほど高くなく、ひらひらと力なく飛ぶのが特徴です。その侵入経路は、カツオブシムシと同様に、開いた窓やドアの隙間からの飛来や、洗濯物や人に付着しての持ち込みが主です。しかし、彼らの真の恐ろしさは、家の中に侵入した後の、その隠密な行動にあります。光を嫌う性質から、彼らは人間の目に触れるリビングなどを活発に飛び回ることはせず、一直線に、最も暗く、静かで、空気の動きが少ない場所、すなわちクローゼットやタンスの奥深くを目指します。そのため、私たちは、彼らが家の中に侵入したことに気づくことすら、ほとんどありません。そして、目的地にたどり着いたメスは、カツオブシムシと同様に、ウールやシルクといった動物性繊維の衣類に卵を産み付けます。卵から孵化したイガの幼虫は、白いイモムシ状の姿をしています。彼らの最大の特徴は、自らが食べた衣類の繊維や、ホコリなどを使い、筒状の巣(蓑)を作って、その中に隠れながら移動し、食事をする点です。この巣が、周囲の繊維と見事にカモフラージュされるため、発見はさらに困難になります。彼らは、特に、汗や食べこぼしなどの汚れが付着した部分を好んで食べる傾向があります。気づかないうちに、静かに、そして確実に被害を広げていく、まさに「静かなる暗殺者」。それがイガなのです。カツオブシムシと同様に、対策の基本は、成虫の侵入を防ぎ、衣類を清潔に保ち、防虫剤を適切に使用することに尽きます。