蜂に刺された際に起こるアナフィラキシーショックとは、医学的に見れば免疫系の過剰反応による「全身性のアレルギー反応」の一種です。私たちの体には、外部から侵入した異物を排除しようとする免疫機能が備わっていますが、蜂の毒に含まれる特定のタンパク質が抗原となり、これに対して体内でIgE抗体という物質が作られます。一度抗体が作られると、次に同じ毒が体内に入った際、肥満細胞と呼ばれる細胞が抗体と結びつき、ヒスタミンやロイコトリエンといった化学伝達物質を大量に放出します。これらの物質は血管を急激に拡張させ、血管透過性を高める働きがあります。その結果、血管内の水分が組織に漏れ出し、急激な血圧低下を招くとともに、全身に蕁麻疹や浮腫を引き起こします。これがショック状態の正体です。特に恐ろしいのは、この反応が数分から数十分という極めて短い時間で進行することです。肺の気管支が収縮して呼吸ができなくなる気道閉塞は、窒息死を招く直接的な原因となります。また、心臓への血流が不足することで心停止に至るケースもあります。蜂毒の中には、ミツバチ、アシナガバチ、スズメバチといった種類によって異なる成分が含まれていますが、一部の成分は共通しており、一つの種類に刺されたことが、他の種類の蜂に対するアレルギー反応を誘発する「交差反応」という現象も知られています。現代医学において、アナフィラキシーショックの第一選択薬として使用されるのがアドレナリンです。アドレナリンにはα受容体とβ受容体を刺激する作用があり、血管を収縮させて血圧を上げ、気管支を拡張させて呼吸を楽にする効果があります。この作用は非常に強力で、心停止直前の状態からでも劇的な回復を見せることがありますが、その効果は持続時間が短いため、速やかな専門的治療への移行が欠かせません。こうした生体メカニズムを理解することは、蜂に刺された際の初期症状の重大さを正しく認識し、迅速な行動につなげるために重要です。単なる「腫れ」と「アレルギー」の境界線がどこにあるのかを意識し、自分の体が発する警告信号を見逃さないことが、科学的な視点に基づいた安全策の根幹となります。
蜂の毒が体に引き起こすアナフィラキシーショックのメカニズムを解説