日本家屋でよく見かけるゴキブリには、主に、大きくて黒い「クロゴキブリ」と、小さくて茶色い「チャバネゴキブリ」の二種類がいます。この二者は、見た目や大きさだけでなく、その繁殖戦略、特に卵(卵鞘)の産み付け方においても、大きな違いがあります。この違いを理解することは、どちらのゴキブリが家に侵入しているのかを判断し、適切な対策を立てる上で役立ちます。まず、「クロゴキブリ」の卵鞘です。クロゴキブリの卵鞘は、長さ1センチ程度の、小豆やガマ口財布のような形をしており、色は黒褐色で光沢があります。メスは、この卵鞘を産むと、すぐに物陰や家具の隙間などに産み付け、接着剤のようなもので固定します。つまり、卵鞘を産んだら、あとは放置して、卵の世話はしません。孵化までには1〜2ヶ月ほどの時間がかかります。そのため、クロゴキブリの卵鞘は、大掃除の際などに、家具の裏側や、押し入れの隅といった、普段あまり目にしない場所で、単体で発見されることが多いです。次に、「チャバネゴキブリ」の卵鞘です。チャバネゴキブリの卵鞘は、クロゴキブリのものより少し小さく、色は淡い茶色です。そして、最大の違いは、メスがこの卵鞘を、孵化する直前まで、自分のお尻の先にくっつけたまま持ち歩く、という点です。これは、卵を外敵や乾燥から守るための、非常に優れた繁殖戦略です。そのため、チャバネゴキブリの卵鞘が、単体で落ちているのを見かけることは、ほとんどありません。もし見つけたとすれば、それはまさに今、数十匹の幼虫が孵化しようとしている、あるいは孵化した直後であるという、極めて危険なサインです。チャバネゴキブリは、クロゴキブリよりも格段に繁殖サイクルが早く、一世代の交代にかかる時間は2ヶ月程度です。そのため、一匹でも家の中での繁殖を許してしまうと、あっという間にその数を増やし、駆除が非常に困難になります。小さくて茶色いゴキブリを見かけたら、それはクロゴキブリ以上に、深刻な事態の始まりかもしれないのです。
黒いゴキブリと茶色いゴキブリ、卵の違い