数多くの現場でハトと対峙してきた害鳥対策の専門家は、ハトという生物の最大の武器はその驚異的な「執着心」にあると語ります。ハトは単なる鳥ではなく、非常に高度な帰巣本能と場所に対する記憶力を持った生き物です。一度その場所を自分のテリトリー、あるいは安全な繁殖場所だと認識すると、どれほど強い圧力をかけても、隙あらば戻ってこようとします。専門家が遭遇したある現場では、強力な忌避剤を散布し、手すりにスパイクを設置したにもかかわらず、ハトがそのスパイクのわずかな隙間に足をかけ、痛みに耐えながらも居座り続けたという例があります。これは、ハトにとってその場所が単なる休憩所ではなく、次世代を残すための命懸けの拠点となっていることを示しています。ハトの生態で特に興味深いのは、彼らの社会性です。一羽が安全を確認すると、周囲の仲間にもその情報が伝わり、次々と集まってくるようになります。逆に言えば、リーダー格のハトを徹底的に排除し、その場所を「危険」だと認識させることができれば、群れ全体を遠ざけることが可能になります。しかし、ハトは一度覚えた恐怖も、時間の経過とともに「今は安全かもしれない」と再確認しに来る知能を持っています。専門家は、ハト駆除において「一〇〇点か〇点か」の二択しかないと強調します。九九点の対策をしても、残りの一箇所の隙間があれば、ハトはそこを突破口にして戻ってきます。彼らは風の流れや気温、天敵の有無を五感で鋭く察知し、最も効率的にエネルギーを温存できる場所を選んでいます。私たちがハトを駆除するためには、単にネットを張るだけでなく、彼らの視点に立って建物を眺め、どこが彼らにとって魅力的なのかを理解しなければなりません。ハトは平和のシンボルという穏やかな顔の裏に、過酷な都市環境を生き抜くためのしたたかな生存戦略を秘めています。駆除の専門家が最も警戒するのは、ハトを甘く見ることです。相手は数キロ先からでも自分の巣へ戻ってこられるナビゲーション能力の持ち主であり、その執着心に打ち勝つには、人間側のそれ以上の持続力と徹底した物理的遮断が必要なのです。