本棚の奥や、長年開けていない押し入れ、あるいは浴室や洗面所の隅から、銀色に光る、魚のような形をした虫が、クネクネと驚くほどの速さで走り去っていく。その虫の正体は「シミ(紙魚)」。その名の通り、銀灰色の鱗粉に覆われた体が特徴的な、最も代表的な「細長い虫」の一つです。彼らは光を嫌い、暗く、暖かく、湿度の高い場所を好んで生息します。シミの恐ろしさは、その食性にあります。彼らの大好物は、デンプン質や糖質。本で言えば、ページそのものである紙(セルロース)はもちろんのこと、製本に使われる糊や、表紙の装丁などを、まるで表面を削り取るように食べてしまいます。被害にあった本のページは、不規則な形にかじられ、地図のような食害痕が残ります。しかし、彼らの食欲は本に留まりません。壁紙を貼るための糊、衣類についた食べこぼしのシミ、レーヨンなどの化学繊維、そしてホコリの中に含まれる人間のフケや抜け毛まで、驚くほど広範囲のものを食べます。彼らは人間を刺したり、病気を媒介したりすることはありませんが、その存在は、あなたの家が「湿度が高く、餌が豊富である」ことの証明に他なりません。シミの対策は、徹底した「除湿」と「清掃」が基本です。定期的な換気や除湿機の使用で、室内の湿度を常に60%以下に保つことを目指しましょう。そして、ホコリや髪の毛は彼らの貴重な栄養源となるため、家具の裏や部屋の隅まで、こまめに掃除機をかけることが重要です。長期間読まない本や、衣類を保管する場合は、必ず防虫剤を併用しましょう。この銀色の影は、あなたの家の隠れた問題を映し出す鏡。その姿を見たら、家全体の環境を見直す良い機会と捉えるべきなのです。