シバンムシが家の広範囲に発生してしまい、もはや発生源の特定も難しい。そんな八方塞がりの状況に陥った時、多くの人が最後の望みを託すのが、「バルサン」に代表される、くん煙・くん蒸タイプの殺虫剤です。部屋の隅々まで薬剤を行き渡らせ、隠れた害虫を一網打尽にする。この謳い文句は、確かに非常に魅力的に聞こえます。では、このくん煙剤は、果たしてシバンムシに対しても、本当に効果的なのでしょうか。結論から言うと、その効果は「限定的であり、使い方を間違えると、ほとんど意味がない」というのが、プロの視点からの答えです。その理由は、シバンムシのライフサイクルと、くん煙剤の特性にあります。くん煙剤が効果を発揮するのは、主に、室内を飛んだり歩き回ったりしている「成虫」に対してです。部屋中に拡散した殺虫成分が、成虫の体に付着し、駆除することができます。しかし、シバンムシ問題の本当の根源は、成虫ではなく、食品の袋や畳の内部といった、薬剤が届きにくい場所に隠れている「幼虫」や「卵」です。くん煙剤の煙は、残念ながら、固く閉ざされた袋の中や、畳の深部までは浸透することができません。そのため、たとえその時に活動していた成虫を全滅させることができたとしても、安全なシェルターの中にいる幼虫や卵は生き残り、やがてそれらが成虫となって、再び発生を繰り返すことになるのです。つまり、くん煙剤を使うだけでは、根本的な解決には至らないのです。では、くん煙剤は全くの無駄なのでしょうか。いいえ、使い方次第では、有効な補助手段となり得ます。最も効果的な戦略は、まず、発生源となっている汚染食品を特定し、全て廃棄・清掃するという「根本対策」を徹底的に行った上で、その「仕上げ」として、くん煙剤を使用することです。これにより、発生源から逃げ出し、部屋のどこかに隠れていた成虫の生き残りを叩き、被害の再拡大を防ぐことができます。くん煙剤は、万能の魔法ではありません。あくまで、地道な発生源対策と組み合わせて初めて、その真価を発揮する、援護射撃のような存在だと理解することが重要です。