従来の薬剤散布(バリア工法)に代わる、新しい白蟻駆除の方法として、近年急速に普及しているのが「ベイト工法」です。この方法は、力で敵をねじ伏せるのではなく、白蟻自身の習性を巧みに利用して、巣そのものを内部から崩壊させるという、極めて戦略的でスマートな駆除方法です。ベイト工法の中核となるのが、「ベイト剤」と呼ばれる特殊な毒餌です。このベイト剤は、白蟻が好むセルロース(木材の主成分)に、「脱皮阻害剤」という、昆虫にしか作用しない特殊な薬剤を混ぜ込んだものです。この薬剤は、摂取してもすぐには効果が現れず、白蟻が次に脱皮をするタイミングで、正常な脱皮を妨げて死に至らしめます。この「遅効性」こそが、ベイト工法の最大の鍵となります。施工の手順は、まず、家の周りの地面に、「ステーション」と呼ばれる専用の容器を、数メートル間隔で埋設します。このステーションの中には、最初は薬剤の入っていない、ただの木材(モニタリング材)を入れておきます。そして、定期的にこのステーションを点検し、白蟻が木材を食べているのを確認したら、初めてその木材を薬剤入りのベイト剤と交換します。餌を見つけた働きアリは、それが毒餌であるとは知らずに巣へと持ち帰り、女王アリや兵隊アリ、幼虫といった巣の仲間たちに分け与えます。そして、数週間から数ヶ月かけて、巣の中にいる全ての白蟻が、脱皮のタイミングで次々と死んでいき、最終的には女王アリも死滅し、巣全体が完全に崩壊するのです。このベイト工法の最大のメリットは、使用する薬剤の量が非常に少なく、それをステーション内に限定して使用するため、人やペット、そして環境への安全性が非常に高い点です。一方で、デメリットとしては、巣が根絶するまでに時間がかかることや、定期的なモニタリングが必要となるため、維持管理のコストが発生する点が挙げられます。環境への配慮を最優先に考え、根本的な解決を目指したい方に、最適な選択肢と言えるでしょう。