スズメバチの研究を長年続けている専門家に、キイロスズメバチが作り上げるあの巨大な構造物の秘密についてお話を伺いました。キイロスズメバチの巣を間近で見ると、その表面には薄茶色や濃褐色が入り混じった美しいマーブル模様が広がっていますが、この材料が何であるかをご存知でしょうか。彼らは、立ち枯れた木や朽ちた切り株、あるいは住宅の塀や古い電柱といった場所から、強力な顎で樹木の繊維を削り取ってきます。これを口の中で唾液と混ぜ合わせ、丁寧に練り上げることで、非常に軽量で丈夫な「和紙」のような素材を作り出します。キイロスズメバチの巣が他のハチの巣よりも急速に巨大化できるのは、彼らがこの紙作りの技術に極めて長けており、かつ周囲から多種多様な材料を効率よく集めてくるからです。専門家によれば、この巣の外壁は何層にも重なった多層構造になっており、その隙間に空気の層を作ることで、驚異的な断熱効果を発揮しているのだそうです。真夏の炎天下であっても、あるいは急な冷え込みがあったとしても、巣の内部の温度は幼虫の成長に最適な三十二度前後に一定に保たれています。この「天然のエアコン」とも呼べる機能こそが、キイロスズメバチが日本全国の多様な気候に適応し、都市部のアスファルト熱にも負けずに繁殖を続けられる最大の武器なのです。また、この巣の材料は、単に温度を保つだけでなく、雨水を弾く撥水性も備えています。激しい夕立に見舞われても、内部に水が染み込むことはなく、幼虫や蛹が溺れることはありません。インタビューを通じて明らかになったのは、あの不気味な巨大な塊が、実は昆虫界における最先端の建築技術の結晶であるという事実です。しかし、その優れた断熱性能と堅牢さが、家屋の屋根裏や断熱材の中に作られた場合には大きな問題となります。一度定着してしまえば、外部からの熱変化に左右されず、ハチたちは冬の手前まで勢力を拡大し続けることができるからです。彼らの建築能力を科学的に理解することは、その驚異的な生命力を正しく畏怖し、住宅への侵入を未然に防ぐための重要な知見となります。