あの日、私はいつものように趣味の単独登山を楽しんでいました。標高もそれほど高くなく、慣れ親しんだルートだったため、心に油断があったのかもしれません。山頂付近の細い道を歩いていた時、突然羽音が耳元で響いたかと思うと、右腕に鋭い衝撃が走りました。見るとそこには大型のスズメバチが止まっており、私はパニックになって腕を振り払いました。それが蜂をさらに刺激したのか、立て続けに二箇所を刺されてしまったのです。最初は激痛だけでしたが、数分も経たないうちに異変が始まりました。まず、刺された場所以外の全身が熱くなり、猛烈な痒みに襲われました。鏡を見ることはできませんでしたが、自分の腕や腹部にボコボコとした大きな蕁麻疹が広がっていくのが感触で分かりました。それからすぐに、目の前が暗くなり始め、激しい動悸が止まらなくなりました。呼吸をしようとしても、空気が肺に入ってこない感覚があり、喉の奥が狭まっているような恐怖を感じました。これが噂に聞くアナフィラキシーショックだと直感しましたが、足に力が力が入らず、その場に崩れ落ちてしまいました。幸いにも、数分後に通りかかった別の登山者が私を見つけてくれました。その方は冷静に私の異変を察知し、すぐに救急要請をしてくれただけでなく、私が持っていた携帯電話から家族への連絡も手伝ってくれました。意識が遠のく中で覚えているのは、救急隊員の方の声と、遠くで聞こえるヘリコプターの音だけです。病院に担ぎ込まれた時には血圧が極端に低下しており、処置が数分遅れていれば命はなかったと後で医師に告げられました。退院後、私は自分が蜂毒に対して非常に強い抗体を持っていることを知り、医師の勧めでエピペンを常備することにしました。あの時の死を覚悟した恐怖は、今でも鮮明に思い出されます。蜂のアナフィラキシーショックは、決して大げさな話ではなく、本当に数分で人の命を奪い去るものです。私のような経験を誰にもしてほしくありません。山に入る際は、黒い服を避ける、香水を使わないといった基本的な対策はもちろん、万が一刺された時の連絡手段や、アレルギー検査の受診を強くお勧めします。自然は美しいものですが、そこには確実に命の危険が潜んでいることを、私は身をもって学びました。
登山中に蜂に襲われアナフィラキシーショックで生死を彷徨った経験