服を食べる虫との戦いにおいて、多くの人が見落としがちなのが、敵の侵入形態です。私たちは、クローゼットの中でうごめく幼虫の姿にばかり気を取られがちですが、全ての物語の始まりは、その親である「成虫」が、どこからかあなたの家にやってきた、という事実にあります。そして、その最も一般的で、防ぎようのない侵入経路こそ、「空」、すなわち成虫が自らの羽で飛んでくるというルートなのです。衣類害虫の代表格であるカツオブシムシやイガの成虫は、蝶や蛾、あるいはテントウムシのような甲虫の仲間であり、当然のことながら飛行能力を持っています。彼らが最も活発に活動するのは、暖かくなる春から初夏にかけての季節です。越冬を終えた成虫たちは、交尾と産卵という、子孫を残すための最も重要な使命を果たすため、一斉に飛び立ちます。そして、メスは、孵化した幼虫がすぐに餌にありつける、理想的な産卵場所を探して、家々を偵察し始めます。その格好のターゲットとなるのが、私たちの家なのです。開けっ放しにしていた窓や、玄関のドアを開けたほんの一瞬の隙。あるいは、経年劣化で破れてしまった網戸の小さな穴や、サッシとの間にできたわずかな隙間。これらは全て、彼らにとって「どうぞ、お入りください」と書かれた、赤絨毯の敷かれた入り口に他なりません。特に、カツオブシムシの成虫は、白い色を好む習性があると言われており、屋外に干された白いワイシャツやシーツなどに引き寄せられ、付着することがあります。そして、それに気づかずに洗濯物を取り込んでしまうことで、知らず知らずのうちに、家の中への侵入を許してしまうのです。一度家の中に入ったメスは、その優れた嗅覚で、ウールやシルクといった動物性繊維の匂いや、皮脂の汚れが染み付いた場所を嗅ぎつけ、クローゼットの奥深くへと潜り込み、産卵します。空からの侵略者を防ぐためには、窓や網戸の管理を徹底すること。それが、全ての悲劇の始まりを未然に防ぐための、最も基本的な防衛策なのです。
最大の侵入経路、それは「空」からやってくる